普通の理系の研究室選びのススメ
先日B3の後輩に「研究室をどう選ぶべきかわからない」と相談を受けた。
個人的に研究室配属前に知っておいた・考慮しておいた方がよかったと思うことと、知っておいて悪くはなかった情報を列挙していく。
対象:学部の勉強をそこそこにこなしたGPA:2.1~2.7ぐらいの人
→この層を対象にした理由を述べると、極端に良い成績を取っている人は自分がやりたいこと&それに向けてどのようなプロセスを踏めばいいのかおそらく把握していると思うので、こんなブログはアドバイスにならないと思う。
逆に極端に悪い成績を取っている人は、そもそも研究室を選択できる立場にない可能性があると踏んでいるので、やはり役に立たないと思う。
そして"普通"とあるが率直に書くとこれまでの学生生活において、入りたい研究室テーマに即した現代技術のノウハウをあまり知らないで過ごした人、具体的に落とし込めば関連研究の論文を一個も読んだことない人、あたりが対象だと思ってほしい。
責めているとか差別するとかでなくて、弊学でいうとロボメカ工房とかに入って3年間なにかしら講義以外でコードを書いたり設計したりした人と、サークルに入らずコンビニバイトしていましたという人では、GPA的には同じスタートだろうが配属後でやはり全然違うスタートになると認識した方が良い。(もちろん研究室に入ってから努力次第でカバーできるとは思うけど。)
例えばだけど、「画像処理やりたいです!いま流行りのDeepLearningとか気になります!」と思ったとする。それ自体は別にいい。
ただ、研究室に入ると「なるほど、じゃあTensorflow使ったことある?ニューラルネットワーク関係の数式は大丈夫だよね?うちはGitで運用するけど使い方わかる?」と、いきなりワケワカラン単語や式で殴られる。
もちろん研究室でみっちりと前期・輪講で教えてくれるところもあると思うけど、そうでないところを選んでしまう場合だってあるだろう。そうなると、ひたすらワケワカランデータをぶん回したり、よくわからないまま終わることだって多々だ。
せっかくの卒研を「こんなはずじゃなかった。」となってしまうのは非常につらい一年を過ごすことになると思うし、指導する側もされる側もお互いに不幸だと思う。
そうならないように、あえて"普通の理系"向けに5つの視点からエントリする。
1. 指導教官との相性と、自分の性格・能力を把握する
研究を円滑に進めるために、これを優先度一位にすべきだと思った。
相性といっても、指導教官の性格に依存させて決めてしまってはいけない。例えば「やさしそう」とか「講義を受けてわかりやすかった」で決めるのは危険だと言いたい。
どちらかといえば自分の性格・能力を把握した上で配属面接に臨み、「この先生なら、自分が詰まったときに、指導を請うことができるだろう」という決め方がいいと思う。
私の話をする。
私は学部時代の勉強は怠惰で、GPAは2.5~2.7程度の平々凡々プレイヤーであった。研究室に向けた勉強は、3年後期にその先生が開講している講義をとったぐらいである。
私の指導教官は研究者としても人間的にも非常に素晴らしい方だと思うが、忙しそうでいつも質問しにくかった。
さらに付け加えると卒論提出前に私はプライベートに関するトラブルが起きて、精神的にまともに取り組むことが不可能になり、卒論はやり直しになった。(これはかなり異例のケースである)
これらの経験を踏まえると、指導教官に「『〜〜という状況が起きました。休みたいです。』と言えるかどうか?」は大きいと思う。
なにせ同期・修士2年もいる。先生もつきっきりで自分一人のコンディションを見てくれるわけではない。言うまでもなく、先生ご自身の研究や業務だって当然ある。
自分から言い出せないと先生も「なぜあいつはいきなり進捗が出せなくなったんだ。」と頭を抱え込ませてしまう。
研究室生活でそういうものが言えるような信頼関係に持っていくのも主体的でなければいけない。自分はそれができなかった。
もちろん、なんでもあけすけに相談しろというわけではない。相談しなくても研究を進めることができるメンタルの持ち主なら、それはそれでいい。
(私はそうではなかったので、後から振り返ったときに「やはり早めに相談しておけば、少しは当時の状況を回避できたのでは」という気持ちを今年度になっても多少は生じた。)
大げさかもしれないけど、不謹慎ながら家が燃えたとか親友が失踪したとか、そんな極端なことが起きたときを想定してほしい。
それでも卒論は書かねばならない。
そんな非常事態のとき、自分はスイッチ切り替えをして取り組めるか?取り組めないか?取り組めないなら、それはどのようにしたら取り組めるか?という具合に、自分の性格を配属前に把握しておけ、ということだ。
20歳も超えているのだから、そのへんは「いやあ〜その状況になってみないとわからないっすw」とごまかすのではなく、きちんと認識しておいた方がいい。
指導教官によってはすごく面倒見のいい人もいるだろうし、そうでない人もいると思う。
そういった性格面での相性を考えて、「自分は色々とうるさく言われた方が、きちんと取り組めるだろう」,「自分はある程度は自由にやれないとしんどい」といったことから決めるといいと思う。
2. 興味があって”勉強したい”研究テーマなのかを把握する
興味があるテーマを押し通してもいいと思うけど、「これのどこに新規性があるの?」,「一週間何してたの?」などと聞かれて自分が耐えられるメンタルかどうかも今一度認識した方がいいと思う。(先生方の名誉のために言うが、もちろんゼミ生が嫌いで責めているわけではない)
それでも勉強したい分野なのか、それとも単にいま流行りのテーマだから波に乗っかりたいだけなのか、そこを少し抑えた方がいいと思う。
私の周りでも「学部で卒業するのだから、本当に興味があるテーマで厳しい先生よりも、そこそこやれば卒業させてくれる先生がいい」、「いま思えば興味のあるテーマよりも先生との相性で選べばよかった」といった人は何人かいた。
そういう理由で選んでもいい、ということを少し抑えておくといいと思う。(もちろん配属前面談で先生に言ってはいけないけど)
さらに書くと「卒研クラスでその分野において画期的なことがわかる研究結果が出るのは、稀なケース」 と考えておくのも大事だと思う。
画期的なこととは、それまでの技術が覆されたりとか自分の研究が世の中を刷新して日常生活に良い影響を与えていくとか、そういうイメージでいい。繰り返すが、そんな成果は半年足らずではまず出ないというイメージで構わない。
(これは私なりにいろいろな先生や院生と話した結果、学部の研究はやはりお試し期間という印象を受けているからかもしれないが )
3. 生活との兼ね合いを考える
一人暮らしでバイトは必須な人,就活をする人などいろいろな事情・ライフスタイルを持った人は当然いると思う。
そのことを配属前面談でしっかりと伝えるべきだと思う。
「私は経済的な事情から週にこれぐらいの時間はバイトをしなければなりません。研究室のコアタイムはどれぐらいですか?」
「私は院進学はせずに就活をするので、3~5月はご迷惑をおかけすると思いますが、大丈夫ですか?」
これらは今の生活に直結したり、今後長い人生を歩むにおいて、優先度が高いライフスタイルだろう。
しかし当然、受け入れる先の研究室にも研究室なりのやり方はある。
研究室によっては先輩後輩でチームを組んで、真夜中までかかって当番で実験をするところもあるだろう。しかしそれはどうしてもその時間帯に行うことしかできないだとか、自分が知らないだけで正当な理由があることが多い。
けれどもそれらが「やりたくない」ではなく、生活との兼ね合いでどうしても難しいことはあるだろう。
だからこそ自分のライフスタイルに関して、少しでも難色を示す先生(研究室)だった場合、どのようにしてお互いに折り合いをつけるか、しっかりと配属前に相談するべきだと思う。
あとは、飲み会が多かったり学会にバンバン行かせてくれる研究室だった場合、ある程度の出費は想定しておいたほうがいい。(後者はあとから補助が降りるけど。)
そういった研究室の温度感も先輩たちから事前に聞けるといいと思う。
4. ブラック研究室を見分けたい
1~3をしっかりこなせばブラック研究室は避けられると思うけどあえて記述しておく。
これは正直なところ、自分との進捗の戦いに依るのではなかろうか……。
自分含めて要領の悪い人はやはり長々と研究室にいることも多い。それを一概に「ブラックだ!」と言ってしまうのはちょっと違うと思う。ほとんどの先生は学生生活に配慮してくださるし、むしろ生活サイクルが狂うのを良しとしない。
けれども個人的に好きで研究室に残っている人もいるだろう。それだけを見てブラック!と決めつけるのは違うという話だ。
ただ一つヒントを与えると、研究室に昼間に行くのではなく、真夜中に電気が付いているかどうか?で見てみてもよいと思われる。
真夜中まで作業している人が常態化しているということは、言語化するまでもない。
そしてもし研究室の先輩に出会えたら「何の作業をしているんですか?」とか、ワンクッション置いた言葉で質問をすればいいと思う。
そこにいるラボ畜先輩はもしかしたら1~2年はお世話になるかもしれないので、そこのファーストインプレッションが良くないと思ったら、回避するのも一つの手ではある。
理系ありがちなんだけど、間違っても「ブラック研究室ですか?」といった不躾な質問をしてはいけない。もしかしたら今後お世話になるかもしれない先輩に対して、自分の心証が落ちると思う。
5. 成果を出したい
博士に進んだ先輩は「成果が出やすい研究室は、よく研究室メンバー同士で食事に行ったり遊びに行っている気がする」とおっしゃっていた。
私の周りもだいたいそんな感じだったので、おそらくその直感は正しいと思っている。
ゼミ以外でプライベートでの関わりが多ければ「あの人は進捗大丈夫かな」と「確か体調悪かったような」といったことを把握しやすいので、自然と研究においても連帯感が生まれやすくなる。気はする。
もし研究で成果を出したいと思うのなら、研究室生同士が仲が良さそうかどうかも見ることができるといいと思う。お互いに切磋琢磨できることは確かだ。
色々ネガティブ要素を書いたが、もちろん先生方も学部3年生の力量はわかっていると思う。
大事なのは妙に意地を張らずに、わからないことはきちんと質問しにいってやっていきたいという気持ちと行動が、最後には成果となって現れると思う。
良いラボ畜生活を!
おまけ
研究室のインフラを意識するといいと思う。お手洗いが近いとか電子レンジ・冷蔵庫といった生活用品がラボ内に整っているとか、わたしはそこを結構重視した。おかげでラボ畜生活は快適だった。ある同期いわく、配属された研究室はとにかく狭く、椅子の下に寝袋を使って寝ていたとボヤいていた。大変だったと思う。