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読書メモ:リーダーの作法 ささいなことをていねいに

『リーダーの作法 ささいなことをていねいに』を読んだので感想。

背景

自分はリーダーではないけど、リーダー職に就いている人から「どうしたらいいかね〜」と相談(あるいはぼやき)を聞かせてもらうことが多いので、そういうときに「そういえばこちらの本では……」という具合にお話できればいいなあと思い、読むことにしました。

さらに本の冒頭にある『本書の推薦の言葉』という一覧の中に、

ロップが書いてくれたこの本をチームメンバーが読んだら、なにがなんでもあなたに読ませるでしょう

ともありましたので、おそらくメンバークラスが読んでも問題のない、それどころか自分自身もタイトルにある『ささいなことをていねいに』ができるようになれる・あるいは人に薦めたくなるtipsに触れられる内容だろうと考えました。

 

結論

人にオススメする度:★★★☆☆

ささいなことをていねいにできるようになれそうか度:★★☆☆☆

 

感想

本書はNetscapeでマネージャー,Appleでディレクター,slackでエグゼクティブを経験した著者が、それぞれの立場に応じて求められる振る舞いをエッセイ形式で紹介しています。

目次に書いてある表題については響くものが多く、内容によってはメンバークラスでも参考になるものもありました。

個人的にオススメする章は

8章:ランズおすすめの時間節約術

『ちょっとしたことによって、日々1秒1分と節約できます。それができれば、その時間で何か別のことができますよね。是非いまからやりましょう』と、やや強引な語り口ながら、非常に細かいtipsを紹介しています。例えばブラウザで一度に開くタブは常に10個以下にしましょう、といったものです。

それはなぜそうする必要があるのか、それをやることでどういった恩恵が得られるのかといったことを丁寧に書いているところ(それはこの章に限らず他のところでもだいたいそうですが)は、読者に寄り添っている印象を受け、率直に良いなと思いました。

 

章の中で紹介されている項目を実際に読者がやれるかどうかはともかくとして、小さいことでも頭を消耗させるようなことはなるべく日常的に排除しておくということは大事だと改めて考えさせてくれます。

 

10章:青テープリスト

『人が新しい環境におかれたとき、違和感を受けたものはすべて気になるもの。』という前提に立った上で、それらについてどう対処するか?という章です。

でも、そのすべてに対していますぐ直すように取り組むのではなく、それら違和感のあるものについてすべてリストアップしてから、さらに一ヶ月ほど置いて、またそのリストを読み返すことをこの章では勧めています。

そうすると、それらのリスト項目のすべてがすべて緊急性のあるものではないということに気付けるか、あるいは自分自身がその環境に馴染めて、視野が広がっている可能性があるから。という提言でした。

しかしここで重要なのは、リストアップした項目については『すべて修正する』という面持ちでいること。なあなあにしてはいけない、自分の心を騙すことになるから。といった具合に締められていました。

 

確かに新入社員や転職したての人にとっては、新しい環境において気になるところは必ず出ると思うので、リーダーと共に『これらは〜〜〜という理由で修正する』という共通マインドを持っておくことは心を健全に保ちやすいのかなと思います。

 

29章:ランズ流仕事術 

29.5の気質と正誤表に関しては、リーダーだけでなくメンバーにもやるとよさそう。価値観トランプや、私取説に近いものがあります。

たとえば『もし私がミーティング中に30秒以上スマホを操作していたら、何か言ってください。私は気が散っています』といった、その人に関する説明を列挙するように促しています。

「確かにこういうのリーダーもメンバーも提示してくれると楽だよね〜」と思いました。

 

しかし薦めにくい理由

著者は基本的に、チームの円滑化のためにメンバーと1on1を推奨しています。その1on1における態度を丁寧に書いています。

とにかくとことんまで1on1をやるように。会話の回数はもちろん、1on1では愛を持って、我慢をして。相手に任せる。そして場を沈黙が支配するならどのように話を進めればいいか。リーダーである自分にとって不利益な話を流された時、どのような態度でメンバーに接したら良いかといったhow toが書いてあります。

 

能動的にこの本を読むリーダー職の人なら『ああなるほど、こうすればうまくいくのかもしれない』『こういうときはこういう態度で臨めば良いのか』という具合に何かしら知見を得られると思いますが、受動的に「この本にこんなことを書いてありました」とメンバーから薦められて読んだリーダーの場合、皮肉か嫌味を言われているかのような気持ちになるのではないかと、容易に想像ができてしまいました。だから薦めにくいです。

さらに一歩踏み込んで、それでもまだ人の話に傾聴できるリーダーが読んだとして、『リーダーってこんなにやらなきゃいけないの!?』と悲鳴をあげるんじゃないかと思いました。ちょっと同情してしまう。

けどそれがリーダーの仕事ですよと言うのは簡単です。けどそうじゃないじゃん……?

 

あと日本の企業文化と馴染まなさそうだと思いました。メンバーから有益な話を引き出せるようになる・あるいはパフォーマンスが向上するようになるまで何度も1on1の予定を入れてもいいところなんて、ごく稀じゃないかと自分は思います。

ほとんどの場合、上長に「すみません。メンバーに対して1on1をやりたいです」と工数交渉をする段階で「そんなことより手を動かした方が早いんじゃないの?」といった具合に、説得に失敗するんじゃないでしょうか。だからちょっと馴染まない人(文化)にはとことん馴染まない可能性もあります。

 

なにより、リーダー自身が1on1の効果を確信できていなければ1on1をやってみようという気持ちにはなりにくいとも想像できてしまい、全体的に『1on1推し!』という風潮が前面に出ている本書を薦めにくいなと思いました。(ただ採用に際しての心構えは、興味深いかなと思いますが)

 

あと個人の好みの問題で、(おそらく原著もいまいちなのだろうけど、)翻訳が馴染まなかったです。

翻訳者の人は指示代名詞をそのまま訳しがちのところがあるようで、一度頭の中で英語に置き換えて「たぶん本当はもっと軽いイントネーションだったはず……」と考えながら、あるいは何度も文章を往復しながら読まないといけず、やや負担でした。

(deepLとomegaTが翻訳の際に役立ったと書いてありましたが、なるほどな〜と合点がいきました)

 

もう一つ加えると、他のオライリー本と少し違って「じゃあちょっとこれやってみようかな」と思えるほど、熱狂的にはさせてもらえなかったのもマイナスポイントでした。

おそらく具体的なエピソードを取り扱いすぎがゆえに、その状況を想像するだけで読者はすでにげんなりしてしまい、気持ちが暗い方向に引っ張られてしまっているからだと思います。ハッピーエンドな方向になることが示唆されていれば、少しは気持ちが向上するかもしれないですが、ほとんどの章は『このときリーダーであるあなたはこうしなさい』という命令口調あるいは圧のあるものが多く、そこらへんもリーダー職の人に薦めにくいと思いました。

 

感想まとめに入りたい

最後の方はネガティブポイントを列挙してしまいましたが、構成がどこから読んでもいいというスタイルになっているので、何か煮詰まった時にパラパラと読み流すために置いておけばいつの日にか役立つこともありそうな本だとは思います。

それに自分自身も立場が変われば今度は共感や納得を持って読み進められるかもしれないので、また時間が経てば読み返したいです。