みたぬメモ

地味にメモ

御曹司をひざまずかせてしまったので応援していた話

突然ですが、皆さんは御曹司をひざまずかせてしまったことがありますか

私はあります

 

「あんたなに人様をひざまずかせちゃってんのアホか」というツッコミはいやほんとその通りですごめんなさい(低頭)

次に、「いや突然御曹司って言われても……そもそも御曹司っているの?」と思った人もいると思います。

私も正直そう思っていました。

御曹司”……。日本にそんな人、実在してるんですか?(実在してるんだろうけど、私の人生にはおよそ関わりがない)」という具合に。

 

今回のブログは私の近況話と、囲碁棋士 新聞記者 御曹司の一力遼さんをひざまずかせてしまったこと、それからずっと一力さんを応援していた話について、残したくなったので書き留めていきます。

 

 

1. オタク活動の限界と新しい趣味

私はもともとゲームや漫画のグッズを収集するのが大好きな、そこらへんによくいるオタクです。 

このまえいろいろ引っ張り出したけどこれでまだ序の口なのが恐ろしい

 

しかし近年、限界を感じつつありました。部屋の収納もそうですが、主にメンタル面においてです。

グッズを棚に飾っては眺め、箱に収納してはたまに取り出して眺め……ということをやっておりました。

そしてある日、グッズの箱に積もった埃を拭いていてふと気づきます。

 

虚無ではないかと。

このグッズが存在しなければ、埃を拭き去るという動作を日常から排除できる。その空いた時間をほかのことに充てることもできる。ということに気づいてしまいました。

そこから「本当にこのグッズがほしかったのか……?」と、自問自答する日々が長く続きました。自問自答するたびメンタルは徐々に抉られます。そもそも自問自答している時点で熱中できていないわけですし。

そして多くの人の意見を聞き、長い時間をかけて「私にとって収集は一生続けられる趣味ではない」という考えにたどり着きました。(他にも自分の収集癖について色々と考えるきっかけはあったんですけど、書き出すと長くなるのでひとまずこのぐらいで。)

 

しかしここで訪れるのが、空虚です。そして「頭を使う趣味を作らないと、ボケるのが早くなる……という焦りに至ります。

 

頭を使う趣味か。勉強は趣味にならない気がする。楽しんでやれるかどうか自分の性格上自信がないし。

じゃあゲームはどうだろうか。いやいやど近眼だし、画面を前にしてずっとやれるかわからない。

ゲーム? 

そういえば、囲碁って一生続けられる頭を使う趣味って言うよなあ。

 

こうして囲碁を始めることにしました。このとき2021年6月ぐらいのことでした。

  

2. オタクは本当にどうしようもないしそのどうしようもなさが御曹司をひざまずかせる

独学でぼちぼち囲碁の勉強を始め、私は囲碁の配信番組もよく観るようになります。

それまで知らなかったんですけど、いまどきの囲碁youTubeで生中継配信をしてくれてるのがありがたい。

 

そんな折に、私は藤沢里菜さんという女流棋士を知りました。

ちょうどその頃『女流本因坊戦』というタイトル戦があり、藤沢さんはストレート3勝という見事な勝ちっぷりでタイトル防衛をします。私はその強さにすっかり惚れ惚れしていました。

www.youtube.com

そして女流本因坊戦後に放送された、『ポン抜き情報局』の藤沢里菜さんゲスト回をリアタイします。

番組内では「藤沢里菜女流本因坊と星合志保三段の連名色紙が当たる!」という企画があり、私は「藤沢さんの色紙欲しいわ~^^」と軽い気持ちで応募したところ、

当たります。

届いた時はすごいテンションが上がりました。

篆書体で『女流本因坊』と書いてあるカッコいい印も押してあるし、いや~これはちゃんと飾らないと! ウキウキして額縁を買って飾ります。

 

いや~~~~最高じゃん~~~。これ見て毎日囲碁の勉強のやる気を出すぞ~~~~。

👀……………………………

 

👀………………………………………

 

 

 

👀「………………他の先生の色紙もほしいな……」収集オタクの悪い癖が発動した瞬間

 

収集癖に見切りをつけて囲碁を始めたくせに、また収集したくなるというまさかのトラップ。この強欲。オタクは本当にどうしようもない(自戒)

いやでも欲しくなるじゃん(ならないよ)

女流タイトルホルダーに貰ったし、次に貰うなら男性のタイトルホルダーから貰いたいよな~~。

 

👀「そうなると、現タイトルホルダー(2021年11月当時)の井山さんか虎丸さんか一力さんか許さんか……

出典: 段位順 | 棋士 | 囲碁の日本棋院

 

このときオタク、図々しくも「もらえるなら虎丸さんか一力さんのサインが欲しいなあ」とまで思っていました。

虎丸さんはとにかく名前の圧がすごくて最初見たときは「どんな怖い人なんだろう……👀」と思っていたんですが、私も愛読している『ヒカルの碁』の影響を受けてプロ棋士になり、史上最年少での名人位を獲ったという功績がオタクの中でポイント高く、好感度が上がりました(単純)

さらに言えば本因坊戦での対局中、微動だにせず静かに打つ姿が非常に印象的でずっと応援していました。だからサインが欲しい(強欲)

 

そして一力さんについては文藝春秋2021年7月号に掲載された特集記事を読んで知っておりまして、

これがまあ、

bungeishunju.com

序章だけこちらのリンクから読めます。課金すると全部読める

 

自分の人生を反省させられる内容でした。

そのときの衝撃と感想を書き出してはいたんですけど、それだけで3千文字以上になってしまったのでさすがにこのブログでは削ってしまった。いずれの機会に再掲します。

記事には一力遼さんがこれまで超一線級のプロ棋士として数々の成果を残しつつ、おうちを継ぐための試練も同時並行でこなしたエピソードなどが載っていて、これが全部本当なら「一力さんって人は真面目な青年なんだろうな」と誰もが一力さんに好印象を抱く内容だったのです。

 

そう、おうちを継ぐ……。

先述リンクから読める序章にも書いてあるんですけど、一力さんは地方大手新聞社・河北新報(かほくしんぽう)の創設家の一人息子で、要するに御曹司です。

河北新報についてもうすこしくわしく:

  • そもそも地方は地方紙普及率(シェア率)が高い。
    私も地方紙に詳しくなかったんですけど朝日毎日読売の三大全国紙は、地方ではシェア率が低いことをこのとき知りました
  • 宮城県民のほぼ半分が読んでいる地方紙が、河北新報
  • 河北新報3.11で唯一被災した新聞社。当時の報道写真は他メディアでも多数引用された。
  • 河北新報はテレビ局(東北放送)も一族経営で持っているので、宮城県で力がある。

ちなみに一力遼さんのお父さん・おじさん・おじいさん・曾祖父・高祖父は個別でwikiが作られているほどのとんでもないご一家です。由緒がありすぎる。

【参考】

おとうさん:一力雅彦 - Wikipedia

おじさん :一力敦彦 - Wikipedia

おじいさん:一力一夫 - Wikipedia

曽祖父  :一力次郎 - Wikipedia

高祖父  :一力健治郎 - Wikipedia

 

👀「河北新報について詳しく知らなかったけど、宮城の情報インフラは一力家が握っているといっても過言じゃないっぽい。六本木ヒルズのIT社長とか目じゃなさそう」

 

👀「そんなところの御曹司だから悠々自適に生きる人生もあっただろうに、コネが全く使えない勝負師の世界に入って、人並み以上の成果を出し続けるのほんとえらい……」

 

だからまあ、その強さにあやかるべく色紙が欲しいなあと思ってました(結局そこにいきつくのね)

 

さてこのとき2021年11月中旬。

同年1123日には、日本棋院にて『プロ棋士ペア碁選手権2021』が開催される予定でした。そのイベントにはトップクラスの棋士たちが集まるとのことです。

www.pairgo.or.jp

ペア碁:男女1組でペアを組み、交互に碁を打つ競技。競技中はペアと相談禁止。

 

さらに過去の大会の様子を書いている個人ブログを調べると、「プロ棋士からサインをもらえました!」とあります。

 

👀「これに行けばサインがもらえるらしい、行くか〜」

 

オタクは観覧申し込みを済ませ、ニコニコして当日向かいます。

ただし、大きな問題がありました。

当時はコロナの影響が懸念されていたため、観客が入れる会場とプロ棋士の対局場は分かれていました

 

👀あれ……。これはもしかして気軽にサインがもらえないのでは?

 

オタクは焦ります。実際その予感は当たります。

観客たちは大盤解説会が行われる会場で開会式を待ちました。

開会式には出場されるプロ棋士の先生方も集まりますが………、対局のためすぐに別室に移動されました(!)

開会式でのペア棋士たち紹介の様子

 

先生方は大盤解説会の解説のためにときおり戻ってこられるも、感染拡大防止のためすぐに去られます。強欲なオタクも「移動中に話しかけるのはダメだな」とさすがに遠慮が働きます。

個人的には山下敬吾先生の喋りが「喋り慣れてる」という感じでおもしろかったです

 

大盤解説会自体は内容がまだ難しかったんですけど、「こういう場があるのはすごいなー」とゆるい気持ちで終始見てました。

 

👀 .o0(しかしどうあがいても先生方に話しかけるチャンスは見出せない、サイン色紙をもらうのは結構絶望的かもしれない)

 

けれどたった一つだけチャンスが残っていました。

それは、決勝に進出するペアは閉会式インタビューのために会場に戻ってくるとのこと。

 

👀  .o0(決勝進出組にタイトルホルダーの先生が残っていれば、当初の目的が果たせるかもしれん……

 

もはや色紙欲しさだけに、タイトルホルダーがいるペアを応援するオタク。

そして願いは叶います。長い死闘後、井山裕太さん&牛栄子さん、一力遼さん&知念かおりさんの二組ペアが決勝進出を果たしました。めでたい!

手前の人、Eテレ囲碁フォーカスの講師役をやってる鈴木伸二先生(のはず)

 

閉会式も終わり、会場内で仲良くなったおじさん「たぶんあのインタビューのあとにサインもらえるよ、行ってきたらどうでしょう」と後押しされました。

このとき18時前。会場の雰囲気は「中学校の卒業式が終わった後かな?」ってぐらいゆるい。どれぐらいかというとヒカ碁の監修をしてた吉原由香里先生が普通にファンと喋ってるぐらいゆるかった。こんなゆるい空気でいいのだろうか。オタクはオタクイベントで慣らされてきたので出演者側にこんなにフランクに話しかけていい空間があるなんてびっくりだよ……。

 

そして、当時『天元』のタイトルホルダーである一力遼さんが会場内を去るかどうしようかとさまよっているのが見えます井山さんは用事があったのかすぐにいなくなってました

 

👀 .o0(会場内にあるパイプ椅子もどんどん片付けられているし、井山さんもいなくなった。タイトルホルダーの色紙がほしいならもう今しかない……。それに一力さんが残っているのは超ラッキーなのでは!?)

 

オタクは勇気を出して向かってみることにしてみました。

そのときの出来事は、今でも忘れられません。

 

👀✨「あのー、ファンです。色紙書いてもらえますか?」

一力さん「あっ、はい。いいですよ(色紙とペンを受け取ってもらう)」

 

やったぜ! 今日の個人的目的は達成できそうである。いやーよかったよかった。

 

👀 .o0(一力さんは思ったより背が高いのね)

 

オタクは一応164cmあるんだけど一力さんは180cmありそうだな~。youTube配信だと基本ずっと座っていらっしゃるし気づかなかったな。御曹司で高身長とか持ってるなあ。

 

👀 .o0……ん? その一力さんの頭が……下がっていく……?)

 

皆さん、色紙ってどのように書いてもらうものだと思いますか。

私は、『片手で色紙を抱えて、片手でペンを持って書く』ものだと思っています。それでいいと思います。まさしくこんな感じ。

引用元:asahi.com:参加者に気軽にサインをする高尾名人=9月18日 - 写真特集 - 囲碁

 

でも一力さんは私から受け取った色紙を、そのまま近くにあったパイプ椅子の座位部分に乗せました

 

👀 ……?(この人、何を始めるんだ……?)」

 

そして一力さんはその椅子に向かって、両膝を地面につけました。

 

👀 .o0(お、おう……。一力さんのつむじが見えてるな……180cmありそうな人のつむじだ、わーい、滅多にみられないぞ(?????))

 

👀   .o0(いや、違う……。この……今の状況は……………

 

そう。

このときオタクの脳内では、激しい動揺と困惑が始まりました。

 

こ、国内2位の囲碁棋士かつ、お、御曹司が……(椅子を挟んで)私にひざまずく形でサインしてくれてる!?!?!? 

(※別に私にひざまずいているわけではない)

りょ、両膝が思いきり床面についてますけど、そのスーツたぶん吊るしのスーツじゃないですよね!?!? 絶対高いところのですよね!?!?!?!? 

わたし河北新報の人にこの場面見られたら刺されない!?!?!

うちの跡取りになんてことをさせよる、この庶民が!」って、わたし刺されるよ!?!?!?👀💦(刺されないよ)

時間にして数秒ながらも、大混乱の極みです。

というか……こんないち庶民にためらいもなく、ひざまずく形で色紙を書いてくれるだなんて……(※何度でも書くが別に私にひざまずいているわけではない)

この人、人間性がめちゃくちゃ素晴らしくないか……? 

だってファンに渡す色紙の文字が、綺麗になるようにするためだけでしょ……

あと仮に私が24歳のときに異性から「色紙ください!」と言われたら絶対舞い上がる。つうか激闘の3戦を終わらせた後って絶対疲れてるじゃん。ちょっとは嫌な顔しちゃうかもなのに、普通に受け取ってくれたぞ。台がないと書きにくいとしても自分なら膝を屈み込む形で書く。スーツ汚れるとかそういうためらいを一切発生させないで自然に膝を床につけてるのすごすぎんか? これが人気商売の芸能人ならまだわかるけど、囲碁棋士ってそういうのじゃないじゃん。っていうか芸能人ですらそこまでしないと思うよ。振る舞いがまさしく御曹司じゃん。ノブレスオブリージュじゃん(違う)御曹司がひざまずいてるのに庶民の私が立ちっぱなのおかしくない? 私こそが両膝ついて土下座した方がいいんじゃないかな(大混乱)

親御さんの教育がいいんだろうな……。本当のお金持ちってのはゆとりを飛び越えた何かがあるよ。人生何周目なんだろう。敵わない……敵わないよ……。

「いやほんとまじで色紙一枚にそこまでしてくださらないでください(日本語崩壊)」と懇願さえしたくなります。昨日今日で身についたものではない所作とそれを裏付ける優雅さと気品さに圧倒されてしまう。

 

オタクの頭の中は、一力さんには絶対に聴かせられないような怒涛の思考の波が押し寄せてきます。

そして一力さんが書き終えたのを見届けると、『やばいやばいやばいやばい、やばいぞ……これはやばいぞ……と脳内はいよいよ異常に焦ります。

 

👀  .o0(ど、ど、どうしよう。なにか、お礼を言わねば。あとなにか最近のご活躍で、すばらしかったことを言わねば……!!!!)

 

一力さん「(立ち上がりながら)はい、どうぞ」

 

👀💦「あの!!! 山登り番組観ました!!! 山登っててえらいと思いました!!!!!」

 

 

 

 

……………………………………

 

👀「間違えたよ」

家族「間違えてるね。もっと言うことあるでしょ(・ω・`)」

 

なぜだろう。なぜ。

よりによって一力さんがひたすら山登ってたときの番組を、オタクは一番最初に思い出したんだろうか。

囲碁 - 29期竜星 一力 遼の素顔|囲碁・将棋チャンネルホームページ

囲碁tips:『竜星』というタイトルを獲ると、記念にその人個人の特集番組を作ってもらえます。

一力さんはそれまでも『竜星』を連覇していてネタが尽きていたからか、このときだけ特例で山を登らされていました。

 

自分だったら『どうしてタイトルを獲ったのに山登りさせられてるんだろう』と文句言いそうだけど、一力さんはニコニコ登ってるのえらいな」と思いながらぼーっと観てた記憶があります。

 

帰宅して家族に「なんか間違えた気がするので反省会させてください……」と凹みながら打ちあけました。

 

家族「囲碁界ナンバーツーかつ、河北新報御曹司をその人間性の良さゆえにひざまずかせちゃったか(・ω・`) でも色紙もらえてよかったね」

👀「そうね……。あんなに囲碁を頑張っていらして結果も出して、人間性もパーフェクトな青年がいるとは思わなかった。完全に一力先生のファンになったよ」

 

あとペア碁大会の日、スタッフさんもこういったツイートをされていました。

人生何周目なんだろう……。

御曹司って聞くだけでなんとなく調子に乗ってる嫌な人間なんじゃないかとかちょっと思っていたんですけど、すべての偏見を覆されました。勝てない。囲碁も身長も家柄も人間性も何もかも勝てない。

そんな一力先生に書いていただいた文字は『希望』。

事故によって一力先生をひざまずかせてしまった罪悪感はありつつも、それ以上にわざわざサインを書いてもらえたという嬉しさが勝り、即座に額に入れて飾りました。

👀「ぴったり収まってええやん〜」

家族「せっかく書いてもらったんだし、ちゃんと囲碁やらないとバチあたるよ(・ω・`)」

 

そしてオタクは碁会所や近所の囲碁サークルに通い始めるようになります。

「せっかく色紙を書いてもらったし、一力先生の棋譜を理解できるぐらいまでにはなりたい。そのためには人に教えてもらわないともう独学では成長できない」と考えたからです。私にしては大進歩の発想です。

そのとき教わったプロから「一力さんの棋譜や解説を理解できるようになりたいなら、まずはアマチュア初段を目指しなさい」という明確な目標を授かり、ますます囲碁に励むようになります。

 

👀「アマチュア初段、なるほど。ちなみに今の私はどれぐらいの棋力でしょう」

碁会所のプロ「15級ってところですね」

👀「先が長すぎる()

 

初心者(20) <<<< ぺーぺー(15) <<<< ちょっとだけまともに打てる(10) <<<<< ようやく囲碁が打てる(マチュア初段) <<<< かなり打てる(マチュア6/院生クラス) <<<< プロ初段 <<<< たくさんのプロ <<<  (厚い壁) <<< タイトルホルダー(一力先生レベル)

 

しかしこのあと、囲碁界に大事件が起きます。

一力先生は唯一持っていたタイトル『天元』を、正直そこまで注目されていなかった若手棋士・関航太郎さんに奪取されました。

対局内容は惨敗も惨敗まさしく大番狂わせの事態

そしてまもなく一力さんは日本棋院の序列一覧トップから写真が外され、単なる『一力遼 九段』となってしまうのであります。

 

👀「い、一力先生の写真が外れてしまった……

 

当時の段位順ページ

 

レーティングでは国内ナンバーツーの実力なのに、無冠状態

これはたとえるなら全盛期のイチロー大谷翔平さんが二軍落ちするレベルの大事件では。

 

ともかく、どうして。なぜ

一力先生が負けた

 

そんな動揺と衝撃が自分の中に広がります。

www.asahi.com

失冠時の一力先生の表情は観ていてこちらもつらかった

 

👀「一途に努力してきた一力先生ですら負けるのに、オタクが囲碁でアマチュア初段を取るのはもっと努力が必要なのでは…………? 

  努力が必要ということは集中しないといけないし、集中するには部屋が片付いていないといけないよな……。ど、どうしよう……とりあえず邪念の元であるオタクグッズとかいらないものを捨てるか(動揺しながら手当たり次第にゴミ袋に突っ込む)」

 

ここでオタク、なぜか今までずっと集めてきた品のいくつかを捨て始めます。私のことを知っている人が聞けばこれまた大事件です。

 

家族「因果関係はよくわからないけど部屋が片付いていいね(・ω・`)」

👀 💦「よくないよ!? 一力先生がタイトル失ったんだよ!?!?!?!? 囲碁界にとって一大事だよ!!!!!!!!」

 

それまで一力先生を持ち上げていた囲碁界は、無慈悲な扱いが増えたように見えました。

囲碁棋士の方々は一力先生を腫れ物に触るかのごとく扱う人が増え、youTubeのチャット欄・Twitter5chのファンのコメントでは「やはりボンボンではダメか」「大学になんて行かせるべきじゃなかった」「メンタルが弱すぎる」といった、一力先生本人の責でない事情や今までの努力を否定するコメントが一気に増えました

オタクはそれらを「一力先生がタイトルを持ってた頃にはあれだけ持ち上げてたのにな……」と、非常に悔しく悲しい気持ちで眺めていました。

 

3. オタクがすぐにキレ散らかすのは期待が大きいから

年が明けて2022年1月。

無冠状態になった一力さんでしたが、あるタイトルへの挑戦権を持っていました。

囲碁界で最も格のあるタイトル・『棋聖です。

同名タイトルは将棋界にもありますが、『棋聖』は将棋界で言うところの『竜王』です。

棋聖を獲れば、序列は一気に一位に返り咲くというビッグタイトル。

 

しかし相手は囲碁界最強・井山裕太さんです。国内レーティング一位がこの人。

去年一力さんは、保持していた七大タイトルの一つ『碁聖』を、井山さんに奪われています。

www.yomiuri.co.jp

更に付け加えると、去年の一力さんは井山さんが保持する『名人』挑戦をするも、34敗で終わった宿命の相手。

www.asahi.com

 

「ここでなんとしてもタイトルを獲ってほしいが、相手が井山さんで記録が懸かっているならだいぶ厳しいのでは……」

 

このように思っていた一力ファンもいるんじゃないでしょうか。

一力さんも別に弱くはないんですけど、井山さんはハンターハンターで例えるとメルエムみたいな

なにせ年末には虎丸さんが持っていた『王座』のタイトルも奪取して、囲碁界の七大タイトルのうち五つ持っているという圧倒的王者ぶり。

www.nikkei.com

 

王座を井山さんに奪取され、虎丸さんの写真も消えてしまっていた頃の棋院のページ

 

個人的に井山さんに対しては「他にもタイトルを持ってるから、一個ぐらいあげてもいいだろ」と思わなくもないんですが、井山さんは棋聖』において前人未到9連覇中。ここで勝てば現役名誉棋聖称号を名乗れる10連覇となる大勝負で、気を緩ませることは決してないでしょう。

 

そんなかなり絶望的な状況ですが、一力さんが他のタイトルの挑戦権を得られるかどうかもわからない今、タイトル保持者として返り咲くのに望みをつなぐのはまさに『棋聖』戦です。

私も最初、「一力先生には棋聖を獲ってほしい……。オタクも動揺のあまりにグッズ捨てちゃったし……」と、文字に起こすと意味不明な気持ちで見守っていました。

 

しかしある記事を読み、オタクのその気持ちは一気に憤怒に変わります。

 

本文からの引用:

―― 井山棋聖との七番勝負に向けて抱負をお願いします。

タイトルもありませんし、失うものは何もありません。ただ向かっていくだけです。最高の舞台で戦える喜びを噛み締めながら、自分の碁をお見せできるように頑張ります。

 

👀……

 

タイトルもありませんし、失うものは何もありません。

 

👀………………は?💢

 

いや前段から通して読むと普通の文にも読めるんですけど、それでもだいぶ違和感を受けました。

失うものがないとは、いったいどういうことでしょうか。

確かにタイトルはない。しかしそれは状態であって意気込みではない

 

『自分の碁をお見せできるように頑張ります』も、勝ちたいという態度とはちょっと違うように見える。

タイトルがないからこそ、『全力を尽くす』だとか『打倒井山さんです』『必ず棋聖を獲って多くの方を安心させたいです』といった、抱負ではそういう強い感情が見たいのだ。なんだこれは。

 

それになんというか、失うものは本当にないのだろうか。タイトルだけが一力先生の価値だろうか。

 

一緒に山登りしてくれた星合先生や大西先生もいるじゃん?

兄弟子の平田先生や、師匠の宋先生・洪先生からの期待もあるわけじゃん?

あと河北新報で待っててくれている人たちもいるわけじゃん?

私よりも以前に応援してくれたファンもいるのではなかろうか。そういう人たちの気持ちはどこにいくんだろうか。

それらをどう思っていらっしゃるんだろうか。

 

ペア碁大会の時にわざわざ膝を折って色紙を書いてくれたほどの気遣いレベルMAXの一力先生がそういうことを言うとは……。周りの人たちのことをあまりに蔑ろにしているように思えてしまって、その発言にはすごく落胆して憤慨してしまったのでありました。

 

👀💢オタクのグッズもなくなってるんだぞ!! 失うものは、たくさんあるよ一力!?

家族「あなたがオタクグッズ捨てたのは一力さんに関係ないでしょ(・ω・`)」 

 

オタクはそれでも家族にクダを巻くのをやめられません。

 

👀「だってさあ、ショックなんだよ。そんなこと言ってたら気持ちの面で勝てないと思う。『わたし井山さんを倒します。必ず倒します』ぐらいの気持ちが見たかった」

家族「むちゃくちゃを言うなあ(・ω・`)

   だいたい抱負を語る場面で、強気で語って負けたら恥ずかしいじゃん?」

👀「それはそうだけどさあ。せめてこう頑張りますとかさあ、あるじゃない。そんな弱気だったら、お父さんの元で社長になるための修行を早くした方がいいでしょ。タイトルは早々に諦めて、ハッピー二足わらじライフを無難に過ごしつつ引退した方がいいよ」

家族「なに言ってるの。一力さんってまだ24歳なんでしょ?(・ω・`)

   新聞人で24は若造すぎて、どこに出しても舐められるからまだ社長候補にもなれないと思うよ)」

👀「え、若いうちから跡取り確定でちやほやされるもんじゃないの?」

家族「されない。絶対にされない。一力家のwikiにあったでしょ? みんな大学を出たら、大手広告代理店に修行に行かされるんだよ。若いうちにコネクションを作って、新聞人としてのやり方を学ぶんだよ。新卒で揉まれるチャンスを逸した以上、一力さんはまだ囲碁界で踏ん張らないといけないと思うよ」

👀………………御曹司って大変だな(いまさら)」

 

そして家族に諌められて、少し考え直しました。一力先生にも一力先生なりの事情があって言葉を選んで発言してるんだろうな……とか。

そもそもなぜ私がこんなにキレてるんだろうと(いまさら・2度目)

 

私と一力先生は知り合いでもなんでもないですし、むしろ言ってしまえば軽い事故とはいえひざまずかせて色紙を書かせた最悪のファンなわけで、冷静に考えれば一力先生がそういった発言をしていたとしても「ふーんそういうこと言う人なんだ」で終わらせていいはずです。

 

外していなかった色紙をしばし見つめて思案。

👀「……………………………………………………………。」

 

 

👀…………自分は、この色紙を外したくないんだよなあ」

 

「タイトルホルダーの先生にあやかりたい!」という気持ちのままなら、無冠になった一力さんの色紙は外すのが正しいかもしれません。

それこそ一力先生の不甲斐なさに嘆くなら、この色紙は価値がなくなったと考えて捨てるのも一つの手です。

 

けれどこの色紙は一力先生がわざわざ膝をついてまで書いてくださった、私にとっては大事な色紙でした。

捨てたくはない。しかしこのまま飾っていても「この色紙? 一力遼さんという囲碁棋士が『天元』というタイトルを持ってた頃に書いてもらった」という、過去形の説明をしないといけなくなる。それは大変つらい。タイトルをもう一度獲ってほしい。

いずれ引退はされるだろうが、そのときはなんとしても強いままで河北新報に迎えられてほしい。

 

👀「ならば私のやることは、キレ散らかすことではなくて、一力先生が再びタイトルを獲れるように応援することでは?

 

オタクもたまにはまともなことに気づきます。

 

👀「それで一力先生が棋聖を獲ったら、またサイン色紙書いてもらえばwin-winじゃない?」

 

強欲も止まらない。 

 

4. 方向性はともかくやれることはやっておくスタンス

何をすれば応援になるんだろうか。

 

オタクは考えます。

無冠になった一力先生に対する世間の声は、先述の通り非常にシビアでした。おそらくご本人もいくつかは観測してしまっているんじゃなかろうか。

そこで『一力先生を応援しているファンはまだいますよ』という声を届けることが、ファンの自分ができることじゃないかと考えます。

 

👀 .o0(すると、ファンレターと差し入れかな)

 

ちょうどその頃、棋聖戦1局を記念した前夜祭イベントが行われることを知りました。

第46期棋聖戦第1局トークイベント&大盤解説会のお知らせ | 囲碁大会・イベント | 囲碁の日本棋院

 

そこにオタクが参加してファンレターと差し入れを渡せば、少しは一力先生の活力になるんじゃないかと目論みます。

 

ただ自分はメッセージを送るという行為が苦手で、しかも囲碁もまだよくわかっていない人間です。そんな奴から「棋聖が獲れるように応援しています!」と書かれても、「気楽に書いてくれちゃって」と悪感情を持たれる可能性も無きにしも非ず。

私は普段から雑な言葉遣いをしがちの人間なので、相当のプレッシャーがかかりました。

 

👀「御曹司かつ、囲碁棋士の一力遼さんにファンレターを書いてます。その人は将棋界でいうところの藤井聡太さんばりの天才なんですが、持っていたタイトルを全部失い、近々全盛期の羽生善治さんやひふみんクラスの相手にタイトルを賭けて挑戦する立場です。

ファンレター原稿を読みあげるので、キモかったら遠慮なく止めてください。棋聖を獲ってもらうために応援するのに、『えっキモオタからの手紙キモい』と思考のリソースを無駄に奪ってしまって、一力さんが棋聖が獲れなくなるぐらいなら応援しないほうがいいので、ほんとキモかったら止めてください

周りの人「はあ。御曹司で囲碁棋士……どうぞ」

 

微妙に普及活動を行いつつ、ファンレター内容について相談に乗ってもらいます。特に初稿は内容がめちゃくちゃすぎて、色々な方々に校正してもらいました。

 

Take1 

👀「『山登りでは後輩棋士に親切に接し、プロ棋士ペア碁選手権では丁寧な姿勢で色紙を書いてくださるなど、人間性が素晴らしい人がいるのだと感動しました』」

家族「いいんだけどさ。相手は囲碁棋士なんだから、人間性で褒められるより囲碁の内容で褒められたいんじゃないの?(・ω・`)」

👀「正論すぎる」

 

Take2

👀「『文藝春秋の記事を読み、囲碁界には幼い頃から才能もある人が、さらなる努力を重ねていると知りました。そのおかげで私自身は身の程を知り、驕ることなく勉強ができています。』」

哲学クラスタ「いやいやいやいや、それ書いたら『てめーのせいでこちらは囲碁の道を頓挫したんだからアタシの分までしっかりやれよ』って暗にプレッシャーかけてますよ、絶対ダメですよ!?」

👀「気づかなかった」

 

Take3

👀「えーっと『差し入れですが、いらなかったら捨ててもらって大丈夫です』」

おねーさん「いや、なんでそれ書いたの!?!?!? 捨てられるかも知れないもの贈るなよ!!!!」

👀「えっ だって庶民の食べ物が口に合わなかった場合は申し訳ないし、『捨てていい』って書いてあったら捨てやすいかなって」

おねーさん「いやいやいやいや、もうちょっと御曹司を信じてやれよ!? いらなかったら言われなくても捨ててるだろうし! そこは私が言う通りに書いて! あんたそれ絶対書いちゃダメだからね!?!?!」

👀「何から何までありがたい(無能)」

 

こうして実に多くの人の目にかけられ(結局Take8ぐらいまでいった)、内容が着々と固まります。

その節は多くの人たちに大変お世話になりました。

 

5. そして始まる棋聖戦 

棋聖戦1局前夜祭・椿山荘にて

 

👀「こちら一力先生に差し入れなんですけど渡しておいてもらえますか」

受付「あっ、はい……?」

 

囲碁界は差し入れ文化に馴染みがなさそうでしたが、なんやかんやで預けることに成功。

 

当時の様子。

たいへん綺麗な宿で感動しました。今度後輩とヌン活しに行きます。

 

イベント中に出演者撮り放題なのがすごいと思う

井山先生と一力先生は翌日の棋聖戦に備えてすぐにご退出されましたが、トークイベント終了時には他の先生方とたくさん話せました 囲碁界のこのプロの先生と気安く話せる敷居の低さはなんかうれしい

星合先生と写真撮ってもらってるオタクの図 この方も背が高くてびっくりした

 

そして棋聖戦が始まりました。

このブログの想定読者は囲碁の知識がない人だと思いますし、あえて解説はしないんですが各局はyouTubeアーカイブが残っています。

一局ごとに14時間ぐらいかかってますけど、作業用BGMとしてたのしめるのでお時間あればぜひ あとぜひイイネ押してあげて欲しい

youtu.be

ちなみに棋聖戦は二日制なので1局につき1日目・2日目と動画が残ってます

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オタクはこのとき「ただじっと観てるのもなんだし、何か応援したいわね」と思い、一力先生が好きというラーメン屋に通い、神社に参拝するというムーブを行います

すべては「遠隔地で頑張っている一力先生の代わりにラーメンを食べて願掛けしておこう」という気持ちですが、届いているかどうかは謎すぎる。

おいしかった

辛味噌ベースですがそこまで辛くなく750円という安価でお腹いっぱいになるので全方位に薦めたい

ramendb.supleks.jp

ちなみにこの店は超人気店でいつ来ても長蛇の列です。しかもカウンターが6席しかないので時間にゆとりがないとおすすめはできないかも。けれど何度か家族(夫)も付き合わせたとき、店主がいつも隣同士になるように気遣ってくれて嬉しかったです。

 

あと棋聖戦中にはペア碁大会の決勝戦や農心杯という世界戦もありました。

その間もせっせと差し入れとファンレター送ったりラーメンを食べるなどします。

 

さて棋聖戦(・名人戦本因坊戦)は、先に4勝を挙げた方がタイトルを得ます。

一力先生は第4局の時点で3勝しました。

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棋聖奪取まであと一勝だしもうここまできたら逃げ切れるだろう……!!」と思いきや、第5局は一力先生が中盤まで優勢だったのにも関わらず、落とします。

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そして棋聖戦は第6局にもつれこみ、310日~311日に開催されることとなりました。

 

👀「去年行われた名人戦の一力先生vs井山先生。一力さんは先に3勝しました。けれど井山先生に追いつかれて4勝を取られてしまい、名人を奪取できませんでした」

家族「はあ(・ω・`)」

👀「一方の井山先生は、昨年の本因坊碁聖・王座というタイトル戦でもカド番に追い込まれてから怒涛の勢いで追いつき、防衛あるいはタイトル奪取を果たしています。その勢いから『カド番の鬼』とも呼ばれています。だからこそ、ここで絶対33敗のタイに戻してはいけません。

  そして一力さんは宮城出身。ここで勝てば3.11から11年という節目の日に故郷に明るいニュースを持ち帰れるという、東北民としては絶対に外せない局です」

家族「それは確かに勝ってほしいね」

👀「というか、ここで負けちゃったら、もう、だ、だめかも知れない……

 

オタクは懸念していたことがありました。

一力先生といえば、ファンどころかプロ棋士の間でもネタにされるほど、対局において勝ってる時も負けてる時も表情や態度に出やすい棋士です。

実直型と言えば聞こえはいいんですけど、裏を返せばメンタルコントロールが弱いということです。

井山先生にも一力先生の実力は「完成度が高い棋士」と完全に認めてもらっているんですが、劣勢になると天井を仰いだり前髪を弄りだしたり相手にいい手を打たれると一気に顔が赤くなったりと、とにかく動じやすいのが一力先生唯一の弱点

www.youtube.com

10秒だけちょっと見て欲しい 兄弟子の平田先生(奥さんが声優の照井春佳さん)が、一力先生のモノマネをしてるんですけど一力先生はほんとにこういうことやる

天元戦でもメンタルコントロールができずにそのまま失冠したように見えたので、『第6局で獲れなきゃ棋聖を獲るのは永遠に無理だろう』とオタクはこのとき強く思いました。

 

👀「ま、ま、ま、ま負けたらどうしよう、、、負けたら、、、いや、負けるなんて信じられない、今回はラーメン二回行くわ!! 神社参拝も頑張る!!!!」

家族「まずあなたが落ち着きなよ(・ω・`)」

 

そしてオタクは宣言通り、タイトなスケジュールの中でラーメンを二日連続で食べに行く大暴挙を起こします。

 

👀「これで勝ってくれ、、、、頼む…………」

 

しかし。

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6局、一力先生は負けました。

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中盤から井山先生が圧倒的な展開を仕掛けて、完全大差の負けとなります。

 

👀「一力先生が、負けたか……」

 

これまでだったら「井山先生空気読めよ!!」などと吠えていたかも知れません。けれどこのとき、自分は逆に静かになっていました。

 

”あれだけ応援したのに。”

まず、そういう気持ちが先に湧きました。

 

それからちょっと考え直しました。

私はまだアマチュア初段レベルの実力も持っていません。あと別に一力先生の師匠でも親でも長期の支援者でもありません。

そんなやつが「応援しているんだから一力先生勝ってくれよ!」と言っているわけですけど、それについて「自分はどこの目線から発言しているんだ。何様なんだろう……?」と思いました。

 

もちろん競技者に厳しい檄を飛ばすファンは他の世界でもいます。けれどそういうことを言う人って、チケットを買ったりグッズを買ったりだとかなにかしら公式に支援をしてたりとか、ある程度その競技に詳しいから文句を言っていると思うんですよ。

そのどちらにもあてはまらない状態で、一方的に「ラーメン行ってるんだし神社も参拝してるし差し入れもしてるし勝ってくれ頼む」と騒いでいるのは、ちょっと筋が違うんじゃないかと思いました。全部私が勝手にやってることですし。それに自分の性格がどんどん上から目線になってしまっていることにも危惧したのかもしれません。

 

👀  .o0(仮に一力先生が負けたら、私はとんでもない暴言を吐いちゃうんじゃなかろうか。それは囲碁をまだ全然わかっていないのに、おかしい。 そして仮に勝ったとしても自分の性格上、次は『本因坊』、次は『名人』と強く期待しすぎるだろう)

 

あと「他人ばかり応援/批判していて、自分は何をしてるんだ?(何もしていない)」ということにも気づいていました。それこそ先述のメンタルコントロールのくだりだって、一力先生を心配している自分がいるのも本当だが、一力先生の勝敗で動じてる自分がいるのは変じゃないかと。

よくないな、まったくよくない。美しいファンじゃない

 

👀「決めました」

家族「何を?(・ω・`)」

👀「一力先生が勝っても負けても、私は棋聖戦で一力先生の応援を卒業します。そうしないといけません」

 

『自分自身の振る舞いを振り返って急激に冷めてしまった』と言ってもいいんですけど、このときの自分は『腹を決めた』という感覚にも近かったように思います。

あと実況中のAI評価値を見て「あああああああ一力先生が負けるううううう」ってTwitterで叫んでるのも迷惑だなと思ったのも大きいかも。当時見てたフォロワーさんたちにはTL汚し申し訳ない

 

そして棋聖戦7局の前日である3月16日。

覚えている人も多いと思いますが、この日は福島県沖を中心とした震度6地震が二回発生しました。宮城も震度6の地震が発生しました。

earthquake.tenki.jp

 

👀3.11を彷彿するような大きな地震だ……。一力先生のメンタルは大丈夫か……?」

 

対局中は不正防止のため、すべての電子機器は事前に預けることになっています。

そのため一力先生は宮城に地震があったことを知っても、ご家族が無事かどうか安否を確かめることはできないのです。

 

👀これは一力先生にとっては大変不利では……? メンタルが弱い一力先生だし、いよいよ無理かもなあ」

 

けどオタク、このあたりで「いや良くないな、また動じてる」と思い直します。

 

👀 .o0(もうここまできたら信じるしかない。それに自分は第7局で推し活を卒業するし、勝っても負けてもここで終わりなんだ

 

そこからわりといつも通りに過ごしていた気がします。

第7局の1日目である317日に、吉祥寺にある武蔵八幡に参拝しました。「境内の河津桜がもう咲いてるのか、もうそんな時期かー」と思った記憶があります。

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1日目の封じ手は、黒番の一力先生になりました。

この時点のAI評価値は一力先生:井山先生で33.067.0でした。つまりこの時点で、評価値上では一力先生が不利でした。

画像は上のyouTubeリンクより

 

棋聖戦第7局・2日目の318日。

東京は朝から冷たい雨が降っていましたが、この日もラーメンを食べに大塚屋に行きました。雨のせいか、普段よりも人が並んでいなかった記憶があります。

かえりしなに日本棋院に寄り、1階の対局モニタを眺めました。

 

👀「評価値は依然として井山先生有利か」

このときは一力先生には勝ってほしいけど、やっぱり井山先生かなとか、いや一力先生には棋聖奪取してほしいとか、それでもどちらの結果に終わっても静かでいられたらとか、いろいろな気持ちが混ざっていたような気がします。

 

帰宅して、棋聖戦実況中継を開きます。

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評価値は依然として井山先生が有利でした。でもこれも一力先生の実力だ。

騒いでどうにかなるなら騒ぐが、そうではない。

 

👀………………あれ? 評価値が一力先生に少しずつ傾いてる?

 

しかしそれもわずかな差でしかなく、一力先生:井山先生とで42.5 : 57.5 43.1:56.9と、常に拮抗している状態でした。それが一時間以上続きます。

一力先生の表情を見ても、油断は全然できない盤面であることも伺えます。

それでもいい。一方的にやられている時間が長く続くよりかは、少しでも一力ファンも夢が見たい……

 

けれど形勢は一力先生にさらに傾きます。

「もしかして、もしかして有利なのでは?」と思う気持ちと、「いや囲碁は半目さえ勝てれば勝ちだから、一力先生がどこか少しでも下手な手を打てば普通に大逆転がある。そういう対局を何度も見てきた。だから評価値は鵜呑みにできない」と、自分を諌める気持ちが同時に動きます。

でも中盤明け~終盤ぐらいになると自分もいよいよ見えてきます。盤面が。

 

 

 

👀「これは……素人の自分にもわかる……

 

👀「黒の地が多い」

 

👀「一力先生が勝つ」

 

いや油断はできない。

相手は散々煮え湯を飲まされた井山先生である。

youTubeのチャット欄も「いや魔王ならここからでも」「一力はメンタル弱いから」と燃えます。

 

そしてそのときがようやくやってきました。

 

一力先生:井山先生の評価値が終盤99.70.3、目差は9.5

 

井山先生が、投了しました。

 

このとき、youTubeチャット欄は一力先生へのおめでとうコメントとスパチャと、そして井山先生への労いコメントで溢れます。 オタクも少額だけどスパチャ投げといた。

 

勝者フラッシュインタビューでは、記者が『4年前の棋聖戦ではストレート負けでしたが、今回はどうでしたか』という質問と、『前日には地元の宮城で地震がありましたけどどうでしたか』という二大泣かせに行く質問をぶつけます。

 

そう。4年前の棋聖戦

当時大学生だった一力先生はストレート負けし、その場でハンカチを取り出し涙を流しました。それ以外の対局でも、一力先生は多くの場で井山先生には泣かされてきました。

勝ちたい気持ちが常に出ていて、表情や態度にすぐに出るあの一力先生が涙をこらえている。

 

 

👀「涙を流す一力先生がいない……

 

オタクは2022318日、一力先生が棋聖を獲るその瞬間をまさしく見られたのでありました。

 

 

 

家族「一力さんが勝ってよかったね!(・ω・ )」

👀推し活が、終わりました」

家族「そうだね、でも明後日(3月20日)のペア碁ワールドカップで一力さんを見られるかもしれないんでしょ? そのときまた棋聖としてのサインがもらえたらいいね。『棋聖獲ったらまた書いてほしい』って言ってたよね」

👀「そうですね」

 

オタクはこのとき、一力さんが勝っておめでたいという気持ちと、以前からの宣言通りここで推し活をやめないといけないという気持ちに挟まれて、胸中複雑でした。

 

 

6. エピローグ

棋聖戦が終わった翌日・3月19日。

『ペア碁ワールドカップ2020』が渋谷・東急セルリアンタワーにて開催されていました。

私は藤沢里菜先生と井山先生が出場するペア碁見たさに向かいます。

会場内のほとんどの客は井山先生が昨日まで死闘を繰り広げたのを知っているので、対局前インタビューで井山先生が「昨日つらいことがありまして……」と自ら場の笑いを誘っていたのがさすがだと思いました

 

そして19日のペア碁観戦も終わり、オタクが帰ろうかなーと思ったときです。

 

👀「あれ、あちらにいるのは一力先生かな? 昨日は京都で棋聖戦をやって、今朝もインタビューに応じていらしてたのに」

ファンに囲まれてサイン攻めされている一力先生

 

👀「今日対局がある井山先生と一緒に移動してきたのかも。多くのファンからサインお願いされてる。自分も行こう」

 

👀「あの、サインお願いしてもいいですか?」

一力先生(お疲れモード)「はい、いいですよ」

 

シャッシャッ

 

👀…………ありがとうございます! 以前天元の時にもらった色紙の上に飾りますね!

一力先生「あっはい」

 

あっけなく終わった。しかも若干塩対応。凹む。明らかにまあお疲れっぽいしな。

小声早口で前に色紙を書いてもらったときの話をしたけど、さすがに覚えてないよなあ。まあ向こうも天元時代に色紙なんてたくさん書いただろうし。

 

しかしついに終わった。これで『棋聖・一力遼』の色紙が手に入った。夢ではない。

 

👀 .o0(ああよかった。これで全て終わった。)

 

棋聖を獲得された一力先生は、しばらくは「ボンボン」だの「メンタル弱すぎ」と揶揄られることもないだろう。それに今まで2回ほど囲碁のイベントに行ったけど、一力先生があんなにファンに囲まれているのを初めて見られたしもう安心だ。

一力先生の棋戦は続くけど、オタクとしてはここでエンディングがいい。推し活卒業だ。

帰りの電車の中でそんなことをたくさん考えました。

 

👀棋聖の一力先生の色紙をもらえた」

家族「おお、おめでとう!(・ω・ ) ずっと応援してきた甲斐があったね」

👀「うん。そうだね

 

 

👀「『飛翔』か……。」 

そして次の日もペア碁ワールドカップに行くつもりだったので、最後のファンレターを書きました。

 

👀 .o(えーと。『一力先生へ。棋聖奪取おめでとうございます! これからも国内外でのご活躍を楽しみにしております。』、うん。これぐらいあっさりさせよう。まあ返信も一度も来たことないし、そもそも読んでくれてるかも怪しいからね)

 

一力先生が棋聖を獲れてどれぐらい嬉しかったかとか、一力先生の囲碁に向かう姿勢にどれだけ自分も励まされたかとか、どういう応援してたかとか書かれても困るじゃん。神社に行ってラーメン食べに行ってただけだけど。そういうのは自分の胸のうちにそっとしまっておこう。ブログには書いてるけど。

 

御曹司の一力先生をひざまずかせてしまい、そして棋聖戦で応援をし続けたこの三ヶ月。

いろいろな思い出があります。

椿山荘に行ったこと。寒い中もラーメンを食べに行ったこと。神社に参拝したこと。差し入れのお菓子を買うときに人波に揉みくちゃにされたこと。ファンレターのためにボールペン字を必死に練習したこと。多くの人に「ファンレター頑張ってね」と自分も応援されたこと(?)

方向性は多少ズレていると思うんですが、ここまで人を一生懸命応援したことはないので、たぶん忘れないような気がします。

こんなオタクのことなど気にかけず、今後も優雅に羽ばたいていってほしい。

 

棋聖を獲った後のインタビュー写真について、どなたかが「近年の一力の笑顔の中で最もいい出来」と評していたけど本当にそう思う。

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 一力先生、棋聖獲得本当におめでとうございました!

 

そういったわけで、このまとめも終わりです。

最近後輩に「そういや最近一力さんって言わなくなりましたね」と言われたんですけど、まあこんな感じで推し活してて、推しが棋聖獲ったので推し活卒業してたというご報告でした。

なんかまた近況があれば書きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7. 真のエピローグ

一力棋聖からサイン色紙をいただいた3月19日の夜。

実を言うと、オタクはかなりモヤモヤしていました。

 

👀 .o(なぜだろう……)

 

他のイベントでは全然見かけなかったファンの人たちが一力先生に寄っているのを見て、私は「ああ、本当に良かった。一力先生にはまたファンが集まる。棋聖も奪取されたことだし、私もこれで無事に一力先生のファンを卒業できる」と心の底から思いました。

でも何か満たされていない

 

👀 .o0(一力先生は棋聖奪取したし、自分もサインもらったし、いいじゃん……。)

 

しかし気づいてしまったのです。

 

 

 

 

👀 .o0(でもさあ……たぶん『飛翔』ってみんなに書いたんじゃないかな

 

オタクは、有象無象のファンとして終わる感じがあるということに。

 

いや、文句言うなし。全国には多くの一力ファンがいるけど、コロナ禍の影響もあって、みんながみんなこういう囲碁イベントに来て気安くサインをもらえる人ばかりじゃないんだぞ。もらえてるだけありがたいんだぞ。

それに推し活のエンディングとしては最高のハッピーエンドじゃん? 推しが囲碁界一のタイトル『棋聖』を獲った。これすなわち推しが念願の東京ドームに行ったようなもんじゃん?

あとはyouTube配信を見たり、棋院の対局情報を見る程度のオタク活動がいいよ。棋戦のたびにラーメン食べてたら太るよ。てか太ったよ。痩せようぜ

なにより一力先生も応援されてばかりいるより、私自身の棋力を上げる時間に充ててもらった方が囲碁普及的にはきっと嬉しいよ。

 

そんなことを理性の自分は考えました。

 

しかし一方で、どうしても吹き出る気持ちがありました。今思えば、期待してたからガッカリしていたんでしょうね。

『飛翔』の文字を書いてもらった後に「もしかしてファンレターくれてたの、こいつじゃなかろうか」と気づいてくれるイベント発生しないかなと思った。正直にいえば。

 

けど長年のオタク活動経験から「ここで退け! そんな映画みたいなこと起こるわけないでしょ!!! ここが最高のエンディングだぞ! 美しいファンのままで終わろうぜ!!!」って頭の中で警鐘を鳴らしていました。

ただでさえ調子に乗りやすい性格なんだし、これ以上なにかアクションしたら一力先生にとっても迷惑になるじゃん……。

 

👀「だからここで推し活は終わり。絶対終わる。自分は庶民で級位者。向こうは御曹司で棋聖。私が名乗り出る資格はない」

 

 

……………………………………

3月20日のペア碁ワールドカップ

 

👀「あの、一力先生に差し入れをお願いしたいんですけど」

受付「え、あちらに本人が見えますけど。直接渡さなくて良いんですか?」

👀「はい。プレッシャーかけたくないので、お願いします」 

 

受付の人にやや驚かれつつも、これで終わり。

それから他の先生とも話してみたいなあと思って、オタクはあっちこっち歩き回り、多くの先生方にサインをもらいます。

 

そして藤沢里菜先生にもお会いできました! いやー嬉しい嬉しい大変嬉しい。

藤沢先生は性格がよすぎてオタクは緊張しすぎて何喋ったのかしどろもどろですけど、いっぱいお話できて、色紙サインもいただいた上にツーショットまで快く撮らせてもらいました。

このとき撮ってくれた人がこれ以外にもたくさん撮っててくれて、おかげでカメラロールには藤沢先生と一緒に撮ってもらった写真がたくさんあって嬉しかったです、あのときのおじさんありがとうございました!

 

そんな最後に藤沢先生に言ってもらえたのが「また明日も来てください! ペア碁ワールドカップ、楽しいので!」という言葉。神では……? 

他のイベントでは出演者側からこんなことをまず直接言われませんし。すごいなあペア碁ワールドカップ。すごいなあ囲碁界。びっくりしちゃうよ。

 

視界の端に一力先生も見えるけど挨拶は……まあいいか。オタクは綺麗なファンで終わるのでここは我慢や。他のファンもひっきりなしに一力先生に寄ってるからな、他の人に譲ろうな。

これからも頑張ってください、影から応援してます。

 

👀 .o0(グッバイ、僕の運命の推しは君じゃない)

 

もう明日は行かなくていいか。ここで終わらないと未練が溜まる。

 

👀「………………………………………」

 

 

 

👀 .o0(いや…………待てよ)

 

 

なんか自分の発想が色々気持ち悪い。ファン活動した自分に酔ってる感じがあるとグッバイのあたりから目が覚めます。

しかも今後も同じようなイベントが行われるかどうかもわからないのに、本当に何も言わずに推し活を引退していいのだろうか? いや良くはないだろう。一力先生のこと知らないけど、向こうだって人間なんだし差し入れしておいてさすがに名乗り出ないのやばくない? 

大半の人間は「えっどうして会場まで来てるのに直接声かけてこないんだろ」って思うのでは? ここまでのムーブ、完全にキモオタの自己満足じゃん。

というか一力先生の囲碁へ向き合う姿から何を学んだんでしょうかやるなら全力でやれよ。

あとTLでペア碁について検索してたら、「一力先生の写真撮らせてもらった!」というツイートを見かけて、「おいおいおいおいおい、自分だって撮ってもらってないのにうらやましいぞ?」という気持ちになったのも大きいです(素直)

 

👀 .o0(正直なことを言うと、色紙には『飛翔』ではなく『ある文字』を書いて欲しかった……

 

👀 .o0(あと、色紙にはオタクの名前を書いて欲しかったな……

 

そんな自らの欲求に気づいてしまいます。

 

いや、でも仮にファンレターを読まれていた場合、超恩着せがましくならん? 『差し入れしてたんだから色紙の文字を指定させろ』って言うようなもんじゃん? さすがにそれは一方的に贈っておいて最悪すぎるじゃん。

そしてファンレターを読んでもらえていたかどうかも正直怪しい。返信なかったし。いや返信書くぐらいなら囲碁の研究してもらった方が嬉しいけど。けど名前を見せた瞬間になにも反応がなかったら、それはそれで自分にとってキツイんじゃなかろうか。

だいたいもうサイン書いてもらってるんだよなあ。『飛翔』で。これ飾ればいいじゃん……?

 

いや、でも、欲しくないと言えば嘘にはなる……

 

そして悶々と考えます。

綺麗なファンで終わるか、強欲なオタクは名乗り出るか。

 

 『いやでも自分が応援したのってここ3ヶ月だけで、差し入れを渡したの3回じゃん? 一力ファンの中じゃペーペーもいいとこよ。いちいち覚えてもらってないよ』

『覚えてもらってないってのはそれはそれで傷つかんか? 何人にファンレター校正頼んだと思う? それぐらいの労力と時間をかけてきたのにまた塩対応されたらさすがに立ち直れなくなると思うよ』

『いやでも私のことを何一つ知らない藤沢先生だって一緒に写真撮ってくれてサインくれたんだし、一力先生ともサインもらって写真撮ってもらってもバチ当たらなくない?』

『いや出ない方がいいよ、たまにいるじゃん。「俺があいつを武道館まで連れてった」みたいな勘違いオタクになるよ私は。一力先生が棋聖を獲ったのは実力。私はモブ』

 

はたから見てると「いやとっとと行けよ」と思われそうな脳内会議ですが、これは自分の性格の殻を破るかどうか、あるいは自身の欲の深さを省みて最後くらい美しく振る舞うかという、本人にとっては人生における行動規範を問う大事な問題でした。

そして悩みに悩んで3時間。

『ま、お願いしてみてダメならダメでいいんじゃないの。塩対応されたらそれはそれ』という気持ちに落ち着き、ペア碁ワールドカップ最終日の月曜、またしても渋谷に向かいました。

 

そしてまた藤沢先生と出会います きゃー!!(嬉しい)

最終日も藤沢先生と虎丸先生と一緒に写真を撮ってもらって満喫してるオタクの図 虎丸先生も応援してるのですごく嬉しかったです

 

そしてペア碁ワールドカップも終盤戦。

他の人の扇子にサインをしている一力先生の姿を見かけます。

 

👀「アッ、一力先生」←勇気を出す

一力先生「あっはい(振り向いてもらえる)」

スタッフさん「すみませーん!(割り込み)いまちょっとサインとか遠慮してもらっていいですか」

 

撃沈。このとき結構凹んだ。どんな思いで!!オタクはここまで来たと思うんですか!!しかも三日連続で渋谷まできてるんですよ!!!!(オタク泣き)

しかし無情にも閉会式等のイベントも粛々と終わり、場が閑散とし始めます。

 

👀 .o0(あれ、これもしかすると一力先生にもう会えないやつでは……

 

はーーー(脱力)

もう帰る? やめとく? そんな弱気なオタクメンタルが顔を出してます。

しかし会場で仲良くなった他の出待ちファンから「あ、一力先生出てきましたよ。行かなくていいんですか?」と後押しされました

 

👀「うう……………、これで最後だ」

 

このときはめちゃくちゃ緊張しました。

なんかもう逃げたい気持ちとここで行かなきゃもう当分ファンイベントもないしなあという気持ちでいっぱいでした。

 

 

👀「あの、すみません。図々しいんですけど、名前入りでサインお願いしていいですか?」

一力先生「あっはい、もちろんです」

 

よかった!

相変わらず爽やかな対応です。土曜の塩対応はさすがに疲れてたんだろうな……

しかし一力先生も棋聖か。すごい人をひざまずかせちゃって、応援してきたんだなあ。

 

そして色紙とペンを渡しました。

オタクが財布から名刺を取り出そうとしている時、一力先生の手元を見ると文字を早速書き出している様子が見えます。

 

👀 .o0……『メ』?

 

「アッそういや文字指定しそこなった」という気持ちと、「もしかしてそれは書いて欲しかった『あの文字』を書こうとしてくれてるんじゃないか?」という二つの気持ちからオタクは動揺します。どれぐらいかというと名刺を取り出そうとして大塚屋のスタンプカード出そうとしてたぐらいには動揺してました。出すなよ。

もたつく指でようやく名刺を取り出すことに成功します。

 

 

👀「えっと、こういう者です(名刺を見せながら)」

一力先生「あっ」

👀 ?」

 

 

 

 

 

 

一力先生「いつもラムネくれていますよね、ありがとうございます」

 

👀!?

 

このときすごく驚いてしまった。

 

参考:箱で渡してたラムネの図 地味に重い

 

ファンレター、、、よ、読まれてた? と、というか、ファンとして認識されてた?

 

 

 

👀「……アッ、いやいつも箱でお渡ししちゃってて、むしろ荷物にしてしまっててご迷惑をかけてないかと……ハイ、思ってます

 

 

ここまで来てオタクはなにを口走っているのだろうか。

なんかもっと気の利いた言葉あるじゃん? 山登りの反省してなくない? 

「わ~ありがとうございますぅ~! ずっと応援させてもらってたので棋聖奪取は超嬉しかったですぅ~!」とスラスラ言える頭の中のギャルを召喚するとかさ、「こちらこそ棋聖戦を見るのは楽しかったです。おめでとうございます」とか言える社会人フィールド全開の人間とかさ……なんかあるじゃん。

それがここまできて頭の中の人格の第一優先度が高いのがコミュ障陰キャオタクってどうなのよ。もうほんとオタクやめたいよな……(いややめたくはないがこの瞬間だけはオタクの仮面を捨て去りたい)と正直心の中で泣いてしまった。去りたい。いますぐこれ以上ひどいオタク晒す前に去りたい。御曹司記者棋聖の前にオタクはいてはいけない。

 

 

 

一力先生「あ、いや、対局中とかいつも食べてますよ。ハイ」

 

 

👀……………………

 

ちょっと目頭が熱くなるオタク

 

 

もしかしてこちらが緊張と動揺のあまりにめちゃくちゃなことを口走っているのを察して気を遣ってくださってる……?

なんて、なんていい人なんだ一力先生。やっぱり人柄最高すぎんか

 

こちらも一力先生のような素晴らしい棋士を応援できたこの3ヶ月間、楽しかったです。

こんなオタクに応援されないように今後も棋聖を防衛しつつ、他のタイトルも奪取して国内外でもご活躍してください。

あとお父さんお母さん周りの人をいつまでも大事にしてください。

 

そんなまともな言葉がようやく頭の中に浮かぶんですが、一力先生が色紙に文字を書いてくれている姿に感動してしまい、言葉に詰まって何も言えませんでした。まあ言わなくても別によかったかもしれない。

 

👀 .o0(色紙の文字、やっぱり『希望』……………

 

 

私が一番欲しかった文字です。

私も棋聖戦の期間は公私ともにそれなりにつらいこともあったんですが、一力先生が天元時代に書いてくださった色紙を見て「あんなにすごい人だって頑張ってるんだし、自分もまだ頑張れるはず。希望を持って頑張ろう」と、囲碁以外のいろいろなことにも常に励まされてきた文字です。

だから私は書いていただくなら、『希望』が一番欲しかったのでした。

 

この時点でだいぶ胸がいっぱいです。

 

もちろん一力先生の努力と実力あってこそだけど、応援してた自分もこんなに報われていいんだろうか……?

いま、私が日本で一番幸せな推し活卒業イベントを迎えてる自信がある。

 

 

👀「あのー。写真も撮らせてもらってもよろしいですか」

一力先生「はい、もちろんです」

👀「あ、指は一冠の一本指でお願いしたいです」←図々しい 

 

しかもピン写真も快く応じてくださるファンサの良さ……

全国の一力遼ファン見て欲しい ここにも最高の笑顔がある

応援しててよかったと、本当に心の底から報われてしまった。

 

👀「これからも頑張ってください」

一力先生「はい、ありがとうございます^^」

 

このあと渋谷のTSUTAYAに寄ったんですけど、TSUTAYAに行ってもまともに本棚も見られないほど放心してしまいました。

結局TSUTAYAもそんなに見ずにすぐに帰ってしまいます。

 

👀「一力先生にまた色紙書いてもらった。今度は名前入り」

家族「また書いてもらったの!? 全くもう~~~(・ω・`)

   ああ、でもずっと欲しいって言ってた一力さんの棋聖位の、『希望』に名前入りかあ。よかったね」

👀「そうなんよ これが、ずっと欲しかったんよ」

 

 

改めて見比べます。

長かった。

2局・第5局を落とした時はこちらも心底つらかったし、第7局前日に宮城で地震が起きた時は「なんということだ」と自分も心が折られかけた。

けれど一力先生は様々な逆境の中、棋聖を獲得した。

 

すごいよ一力先生、おうちのためとはいえ早大に進学して学業をこなしつつ、囲碁界の記録をいくつか塗り替え、そして卒業してようやく手に入れたタイトル『碁聖』・『天元』をことごとく奪われて、多くの人から厳しい目で見られた時期もあっただろうに、

それでも棋聖を獲ったのが本当に素晴らしすぎる。

そんな一力先生の姿に勇気をもらった人もたくさんいるんじゃなかろうか。そんなことを思います。

 

本当に、おめでとうございます!!!!!

飾ってみると結局これが一番収まりがいいなと気づきました。

天元位から棋聖位に移り変わったこの二つの色紙が同時に揃うの、なかなか感動的だと思ってる。

 

さすがにご本人の目には届かないと思いますが、一生の記念になりました。

本当にありがとうございました。これからも囲碁も、囲碁以外のことも頑張りたいと思います。 

 

〜〜〜〜

 

と、3ヶ月ぐらい怒涛のごとく御曹司の一力先生をひざまずかせてから、棋聖が獲れるまで応援していた話でした

「ここで卒業していいんですか?」と聞かれそうですけど、むしろ推し活でここまで報われることなんてそうそうない気がしていて、だからここでやっぱり卒業でいいと思っています。 

あと一力先生に次に会うときはアマチュア初段持ってたいし……。こんなところでしょうかね。

 

おじいさんたちに無慈悲にボコられつつも色々な碁会所に通ってるオタクがいる 

奥のオタクが自分ですね

 

===

というわけで、本記事は「一力遼さんという、ファンのためにわざわざひざまずく体勢でサインを書いてくれた、とても囲碁が強く人間性が素晴らしい囲碁プロ棋士がいる」ということを紹介したいがために筆をとりました。

 

正直他の一力ファンに刺されかねないし自分の中だけに留めておこうと思っていたんですけど、多くの人から『そのひざまずかせたくだりは絶対に公開した方がいい。たくさんの人に囲碁界および一力さんという人を知ってもらうのに、インパクトがある』と後押しされて書きました。耳目を集めるタイトルのわりにひざまずかせた内容はそこまですごい話ではなくてすみません……

しかしこうして改めて文にすると、私自身も充実した期間を過ごさせてもらったんだなと実感しました。一力先生を通して色々な世界を知れて本当に楽しかったです。

 

ちなみにオタクが長い時間をかけてこの文を書いている間に、一力先生は第77期の本因坊戦挑戦者決定権を得ました。

相手はまたしても最強・井山先生なので、また名局を見せてくれるはず……!!

youtu.be

第1局は5月10日と11日に開催なので、みなさんもよろしければぜひ観て!!!!(宣伝)なんだったら先に高評価だけ押しておいてください!!!!!!!(?)

 

というところで、今回のブログはここで本当に終わりです。

みたぬメモ始まって以来の最長の2万文字越えに、執筆に一ヶ月以上かけるというまさかの大作になりました。出せる力を使って一力先生の魅力を届けられていたら嬉しいなあ。